色を塗るのではなく、信頼を重ねる ― 塗装職人・佐藤建装 代表 佐藤健一さん【インタビューサンプル】

現場で輝く職人の手――30年、塗り続けてきた理由

朝8時、まだ少し肌寒い空気の中、脚立に登った佐藤さんが、ローラーを手に外壁へと色を重ねていく。手元は正確で、まるで絵を描くようなリズムがある。

「塗装って“仕上げ”でしょ? だからこそ、最後まで責任を持って丁寧にやらないとね」
笑いながらそう語るその目は、職人の厳しさと優しさが混ざっている。

道具を持った瞬間に、これが自分の道だとわかった

佐藤健一さん(52歳)は、地元の塗装会社で職人としてキャリアをスタート。その後、独立して「佐藤建装」を立ち上げ、今年で30年を迎える。

「最初はアルバイト感覚だったけど、刷毛を持った瞬間、これで生きていこうって思った。目に見えて変わっていく“家の表情”に感動したんですよ」

何十件、何百件と手がけた現場の中で、特に心に残っているのは、古い木造住宅の再塗装だったという。

「依頼主は年配の女性だったんだけど、『父が建てた家なの。壊したくないからお願いね』って。あれは本当に身が引き締まりましたね。仕上がった時には一緒に泣いちゃいました」

独立と試練――信頼を積み重ねる覚悟

独立したのは24歳のとき。資金も人脈も少なかったが、腕と覚悟だけはあった。

「最初の頃は昼は現場、夜はチラシ配り。ポスティングで1日300枚くらい配ってたね」

しかしバブル崩壊後の建設不況や大手リフォーム業者との価格競争は過酷だった。

「価格だけで勝負すると、いずれ自分の首を締める。でも“信頼”は価格に勝るんだって、痛感した」

その言葉通り、佐藤さんの仕事には一貫して“誠実”が通っている。

見積りの説明は丁寧に。工程は手を抜かずに。アフターフォローも欠かさない。

「やりすぎって言われることもあるけど、お客さんに“またお願いね”って言われるのが一番うれしいんですよ」

素人には見えない仕事を、職人は黙って積み重ねる

塗装業というと「色を塗るだけ」と思われがちだが、実際には高い専門性が求められる仕事だ。

「下地処理が9割。サビやひび割れをそのままに塗っても、意味がない。目に見えないところを丁寧にやるのが、プロの塗装なんですよ」

最近では断熱塗料や遮熱塗料といった最新の塗料も扱っている。

「性能はどんどん進化してる。だから僕たちも、技術と知識をアップデートしなきゃいけない」

若い職人には“施工の前に学び”を徹底させる。

「なんとなく塗るのと、意味を理解して塗るのとじゃ、仕上がりが全然違う。道具より“理解”が大事」

この町で、暮らしを支える一員として

佐藤建装は今、地域密着型の施工店として、口コミで仕事の依頼が絶えない。

地元の町内会や学校から塗装の相談が来ることも多く、最近では地域の防災倉庫の塗り替えも担当した。

「この街で育って、この街で家を守る。地元に支えられてきたから、できることで恩返ししたいですね」

今後は若い世代の育成にも力を入れたいという。

「塗装って、地味だけど、やりがいある仕事。現場で“いい顔”してる職人が増えてくれたら、うれしい」

最後に──塗るのは“家”じゃない。“安心”です

「うちは壁を塗るんじゃない。人の思い出や安心を塗り重ねてる。そんな気持ちで、今日もローラー持って現場に行ってますよ」

静かに、でも確かな誇りを持って、佐藤さんはまた現場へと向かう。
その背中には、“町を守る職人”の姿があった。